新人介護士あかりが勤める「笑顔の花」でコロナ感染者が発生し、施設内は一気に緊迫した空気に包まれた。山田さんの厳しい指示と、小島さんによる陰湿な新人いびりに心を痛めるあかりだったが、同期の伊藤ゆい(ゆいちゃん)の励ましを胸に前向きに業務に取り組むことを誓った。そして、クラスター発生という未曽有の事態の中、あかりは少しずつ成長を始めていた。
コロナの嵐が吹き荒れクラスターになっていた。しかし、あかりは感染の恐怖と闘いながら、隔離スペースでの業務を続けていた。日を追うごとに、防護服の着脱や手指消毒の手順も完璧にこなせるようになり、少しずつ自信がついてきた。
そんなある日の昼休憩、あかりが休憩室で一人、疲れ切った体を休めていると、小島さんが誰かと電話で話しているのが聞こえてきた。 「ええ、はい、田中さんの熱、37.5℃です。でも、一時的なものだと思います。大丈夫です、はい。山田さんには言ってません。」 小島さんの言葉に、あかりはハッとした。
(田中さん? 熱があるの……?)
田中さんは糖尿病を患っており、体調管理には特に注意が必要な利用者だ。あかりは、自分が食事介助を担当した時も、田中さんの体調を心配していた。 山田さんや上司に報告せず、体調の変化を隠蔽しようとしている。自分の負担を減らすために、利用者さんの命を危険にさらしている。小島さんの行動に、あかりは激しい怒りを覚えた。
休憩室の扉を開け、あかりは小島の元へ駆け寄った。 「小島さん!田中さんの熱、どうして山田さんに言わないんですか!?」 あかりの剣幕に、小島は驚き、電話を切った。 「な、なんだよ新人ちゃん。立ち聞きなんて趣味が悪いぜ」 小島さんはそう言って、あかりから目をそらした。
「趣味とかじゃないです!田中さんの熱、どうして隠すんですか!」 あかりは、小島さんの胸ぐらを掴む勢いで詰め寄った。
「うるせぇな!新人には関係ないだろ!それに、たかが微熱じゃない!大袈裟に騒ぐなよ!言ったらまた忙しくなっちゃうじゃないですか!」 小島は、あかりを突き飛ばすようにして言った。 あかりは、その場に立ち尽くすしかなかった。
(たかが、じゃない……!それに忙しくなるから報告しないの?まさか…)
あかりは、田中さんの部屋へ駆け込み、体温計を脇に挟んだ。体温計の表示は、38.2℃。微熱どころか、明らかに発熱していた。
あかりは、震える手で体温計を握りしめた。 (小島さん、どうしてこんなことを…)
あかりは、小島さんの行為を山田さんに報告するべきか、葛藤した。 小島さんを裏切ることになる。でも、利用者さんの命の方が大切だ。 あかりは、葛藤の末、山田さんに報告することを決意した。
「あかり、一体どういう事?」 山田の厳しい声に、あかりは震える声で答えた。 「はい。小島さんが、熱を隠していました…」
山田さんは、あかりの報告を聞くと、すぐに田中さんの元へ駆けつけた。 山田さんは、田中さんの熱を測り、顔を青ざめさせた。 「小島君!どういうこと!」 山田さんの怒鳴り声が、施設中に響き渡った。
小島さんは、山田さんに叱責され、顔を真っ赤にしてうつむいた。その様子を見て、あかりは少しだけ胸がスッとした。
その夜の業務を終え、あかりが更衣室で着替えていると、山田さんがやってきた。 「あかり、今日はあんたのおかげで、大事にならずに済んだ。よくやっね。」 山田さんはそう言って、あかりの肩をポンと叩いた。 「でも、あんた、まだ顔が青いじゃないか。少し休んだら?」 山田さんはそう言って、あかりに温かいコーヒーを手渡してくれた。 あかりは、山田さんの不器用な優しさに、思わず涙があふれた。

そして、山田さんは、あかりに告げた。 「あかり、来月から、夜勤を覚えてもらおうと思う。夜勤は、昼間とは違う。利用者さんたちが寝ている時間だからこそ、小さな変化も見逃さないことが大切だ。」 あかりは、山田さんの言葉に、緊張と期待で胸が高鳴った。
夜勤の初日、あかりは、想像もしていなかった事件に巻き込まれることになる。
つづく

🟢 主人公
中村 あかり(なかむら あかり)

- 18歳・高校卒業したての新人介護士明るく素直で笑顔が魅力。
- 少し不器用だけど「人の役に立ちたい」という気持ちは人一倍強い
- 祖母の影響で介護の道に進む
🟣 先輩職員
山田 典子(やまだ のりこ)

- 40代前半、ベテラン介護士
- 職場では親分肌だが、新人に厳しい態度をとる
小島 健太(こじま けんた)

- 30代半ば、山田の右腕的存在
- 山田に従って新人いびりをする
伊藤 ゆい

- あかりの理解者であり、心の支え あかりと同じく高校を卒業したばかりで、新人ならではの失敗や不安を共有できる唯一の存在
🔵 上司
佐藤 誠一(さとう せいいち)
- 50代、施設の管理者
- 現場の問題にはあまり首を突っ込まないタイプ
