『連続小説・泣いて笑って、新人介護士あかりの成長期』②

介護小説

第一章・旅立ちの春

【前回のあらすじ】
高校を卒業したばかりの新人介護士・あかりは、希望に満ちて特別養護老人ホーム「笑顔の花」の門をくぐった。しかし、親分肌の先輩・山田さんと子分的存在の小島さんに出会い、初日から厳しい洗礼を浴びる。 初めて担当した入所者・田中さんとの温かい交流に救われるも、食事介助で山田さんから厳しく叱責され、理想と現実のギャップに戸惑いを隠せないでいた。

入職して2日目。昨日と打って変わって、今日はフロアを歩き回るだけで精一杯だった。

あかりさん、おはよう。今日もよろしくね

朝の申し送り後、山田さんが私に声をかけてくれた。その顔は、昨日見た仏頂面とは少し違う。いや、気のせいか。

あかりさん、昨日、全然車椅子押せなかったでしょ? 今日はしっかりやってね

その言葉は、まるで私を試すようだった。

山田さんはフロアの隅にある部屋を指差した。

あそこの部屋、入所者の田中さんが朝食を待ってるから、車椅子で食堂まで連れて行ってあげて

田中さんは、特別養護老人ホーム「笑顔の花」の入所者だ。 「はい!」と元気に返事をして、私は田中さんの部屋に向かった。

部屋のドアをノックすると、中から「どうぞ」という優しい声が聞こえてきた。 恐る恐るドアを開けると、そこには車椅子に座った田中さんがいた。 私を見るなり、田中さんはにっこりと微笑んだ。

まあ、可愛いらしい新人さんだね

こんにちは、あかりです。一緒に食堂に行きましょう

私は田中さんの車椅子をゆっくりと押した。 車椅子は、昨日山田さんから押すように言われたものよりも軽く感じた。 それは、田中さんの優しい笑顔のおかげかもしれない。

あかりさん、介護士さんになったばかりなの?

はい、そうです! 高校を卒業したばかりで、まだ何も分からなくて……

そう言うと、田中さんは「私もね、若い頃はね……」と昔の話をたくさん聞かせてくれた。

食堂に到着し、田中さんを席に座らせると、私は「朝食を運んできますね」と言った。 田中さんは「ありがとう」と微笑んでくれた。

その「ありがとう」が、私の胸を温かくした。 まだ何もできていない私だけど、田中さんの笑顔が見られてよかった。

でも、そんな穏やかな時間も束の間だった。 食事を運んでいると、また山田さんの厳しい声が聞こえてきた。

ちょっとあかり! なんでこんなに遅いの! 他の入所者さんのご飯も運ばなきゃいけないんだから、さっさと動きなさい!

山田さんの言葉に、私の心はまた冷たい水の中に沈んでいくようだった。 どうしたら、この職場でうまくやっていけるんだろう。 不安でいっぱいになった。

🟢 主人公

中村 あかり(なかむら あかり)

  • 18歳・高校卒業したての新人介護士明るく素直で笑顔が魅力。
  • 少し不器用だけど「人の役に立ちたい」という気持ちは人一倍強い
  • 祖母の影響で介護の道に進む

🟣 先輩職員

山田 典子(やまだ のりこ)

  • 40代前半、ベテラン介護士
  • 職場では親分肌だが、新人に厳しい態度をとる

小島 健太(こじま けんた)

  • 30代半ば、山田の右腕的存在
  • 山田に従って新人いびりをする

🔵 上司

佐藤 誠一(さとう せいいち)

  • 50代、施設の管理者
  • 現場の問題にはあまり首を突っ込まないタイプ

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