東京地裁は、高齢者施設でのトイレ移動中に発生した転倒事故をめぐり、施設側に約607万円の賠償を命じました。介護現場に求められるリスク管理と安全配慮義務について徹底解説します。
目次
- 判決の概要|トイレ移動中の転倒事故で607万円の賠償命令
- なぜ施設側に責任が認められたのか
- 「安全配慮義務」とは何か?介護現場に求められる基本姿勢
- 転倒事故が起きやすい場面と予防策
- もし事故が起きたら?施設と職員が取るべき対応
- 判決から学ぶ教訓|現場で活かすべき3つの視点
- 過去の類似事例と比較|訪問介護打ち切り裁判との共通点
- まとめ|介護現場の安全は「小さな気づき」から
- オープンチャット「介護の心と体の休憩所」のご案内
1. 判決の概要|トイレ移動中の転倒事故で607万円の賠償命令
2025年、東京地裁で驚きの判決が下されました。
高齢者施設に入所していた利用者がトイレ移動中に転倒し大けがを負った事故をめぐり、施設側に対して約607万円の賠償支払い命令が言い渡されたのです。
今回のケースでは、利用者はトイレに行こうと職員に付き添われていました。しかし移動の際、十分な支援が行われず転倒。骨折など重度のけがを負い、その後の生活にも大きな影響が出ました。
裁判所は「施設には事故を防ぐ注意義務があった」と認定し、慰謝料・治療費・介護費用などを合算して賠償額を算定しました。
2. なぜ施設側に責任が認められたのか
介護施設の利用者は、身体機能が低下していることが多く、トイレなどの日常動作でも転倒のリスクがあります。
そのため、施設には「転倒を予見し、事故を防ぐための合理的な対策を講じる義務」があります。
今回の判決で裁判所は次の点を重視しました。
- 利用者が歩行に不安があることを施設は把握していた
- 職員が十分な身体介助をせず、声かけや支え方が不十分だった
- トイレまでの導線に危険箇所(段差・床の滑りやすさ)があった
つまり、**事故は偶然ではなく「予見できたリスク」**であると認定されたのです。

3. 「安全配慮義務」とは何か?介護現場に求められる基本姿勢
介護施設には、利用者が安全に生活できるようにする「安全配慮義務」が課せられています。
これは法律上の義務であり、怠ると損害賠償責任を負うことになります。
安全配慮義務には次の要素が含まれます。
- 利用者の身体状況を正確に把握すること
- 個々の状態に応じた介助や支援を行うこと
- 環境整備(段差解消、手すり設置、床材の見直しなど)を怠らないこと
- 職員に対して事故防止の教育・研修を実施すること
4. 転倒事故が起きやすい場面と予防策
転倒事故が多発するのは、実は「トイレ移動中」や「入浴前後」といった場面です。
特にトイレは、利用者が「自分で行きたい」という思いを強く持つため、職員が油断しやすいポイントでもあります。
主な予防策
- トイレまでの導線に滑り止めマットを設置
- 利用者ごとのADL(活動能力)に応じて介助レベルを調整
- 転倒リスクが高い利用者にはセンサーや見守りシステムを導入
- 夜間や人手が少ない時間帯には巡回を強化
こうした取り組みは「事故を未然に防ぐ」だけでなく、万一事故が起きた際に「施設としてできる限りの対応をした」と示す証拠にもなります。
5. もし事故が起きたら?施設と職員が取るべき対応
転倒事故が発生した場合、最も重要なのは迅速で誠実な対応です。
- 利用者の状態を確認し、必要ならすぐに医療機関へ搬送
- 家族に速やかに連絡し、状況を説明
- 事故発生状況を詳細に記録(時間・場所・介助方法・職員の配置)
- 施設内で事故原因を分析し、再発防止策を策定
こうした対応が遅れたり曖昧になると、家族の不信感が高まり訴訟リスクが一気に上がります。

6. 判決から学ぶ教訓|現場で活かすべき3つの視点
今回の判決から、介護現場が学ぶべきことは大きく3つあります。
- 「想定外」は通用しない:利用者のリスクは常に想定し、対策を取るべき
- 記録と報告が命:事故対応を記録することで責任追及から施設を守れる
- 安全文化を作る:施設全体で「事故を減らす」意識を共有することが重要
7. 過去の類似事例と比較|訪問介護打ち切り裁判との共通点
先日ご紹介した「訪問介護サービス打ち切り裁判」でも、事業所の一方的な判断が問題視されました。
👉 関連記事はこちら:【炎上リスク】訪問介護の打ち切りが違法に55万賠償命令
どちらの判決にも共通しているのは「利用者の生活を軽視した事業所の姿勢」が批判されている点です。
8. まとめ|介護現場の安全は「小さな気づき」から
今回の607万円賠償命令は、介護現場に大きな警鐘を鳴らしています。
事故は一瞬で起こり、施設の信頼を揺るがす出来事へと発展します。
- 予防策を怠らないこと
- 職員全体で安全意識を高めること
- 万一の時には誠実に対応すること
これらを積み重ねることこそが、利用者の安心と施設の信頼を守る唯一の方法です。
9. オープンチャット「介護の心と体の休憩所」のご案内
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