初めての独り立ち夜勤で、先輩・小島の悪意ある申し送りにより、重大な誤薬インシデントを起こしてしまった新人介護士あかり。オンコールで対応した斎藤看護師からは冷徹な叱責を受け、夜勤明けには師匠である山田からも厳しい責任を問われた。小島の悪意が原因と判明してもなお、プロとしての確認不足を指摘され、介護士としての「命の責任」を痛感する。
1. 氷点下の指導:斎藤さんの冷たい視線
誤薬事件以来、『笑顔の花』のフロアの空気は張り詰めていた。特に、あかりに対する斎藤看護師の態度は、目に見えて冷たくなった。
斎藤看護師は、日頃から小島からあかりの悪口を吹き込まれており、「この新人は危険だ」という認識を強めていた。
「あかりさん、田中さんのバイタル、記録と照合した? 今すぐもう一度測って。」 「水分摂取量、多すぎない? 私の指示と違うわよ。自分の判断でやらないで」

斎藤看護師の指示は的確だが、その言葉の端々には、あかりを「未熟な、危険な介護士」と決めつけるような棘(トゲ)があった。他の介護士がケアをする際は一言もないのに、あかりが担当する利用者のケアに対しては、過剰なほど厳しいチェックが入った。
あかりは、日々の冷たい視線と心無い言葉に、正直心が折れそうになった。しかし、田中さんの急変時、自分が記録を確認しなかったせいで命の危機に晒してしまった後悔と、山田さんから言われた「自分の目で確認しなさい」という言葉が、彼女を支えた。
2. 「医療の壁」への立ち向かい方
あかりは、斎藤看護師の厳しい指導から逃げなかった。むしろ、その視線を逆手に取るように、自分の仕事の精度を上げることに集中した。
斎藤看護師がケアの指示を出すと、あかりはすぐに記録を確認し、少しでも疑問があれば、臆することなく質問をした。
「斎藤さん、こちらの薬、記録では〇〇mgですが、先ほどの指示は〇〇mgでした。今日は変更があったのでしょうか?」 「鈴木さんの微熱についてですが、この時間帯の水分摂取で様子見でよろしいでしょうか。記録には前回、夜間オンコールに繋がったとありますが…」
以前なら、委縮して何も言えなかっただろう。しかし、誤薬の失敗を経たあかりは、斎藤看護師の冷たい態度よりも、利用者さんの命を優先する覚悟を決めていた。
斎藤看護師は、初めはあかりの質問を鬱陶しがったが、次第に眉をひそめるようになる。
(この子、以前はこんなに記録を細かく見てなかったはず。それに、質問が的確すぎる…)
斎藤看護師は、質問を受けるたびに、あかりが本当に「仕事が雑」な新人なのかという違和感を覚え始めた。
3. ゆいの励まし
休憩時間。同期の伊藤ゆいは、疲労困憊のあかりさんの隣に座り、そっとジュースを差し出した。
「あかりちゃん、斎藤さんのプレッシャー、見てるこっちも辛いよ。あんなに厳しく言われるなんて…」
あかりさんはジュースを一気に飲み干し、静かに答えた。 「でも、ゆいちゃん。斎藤さんが厳しいのは、命に関わる仕事だからなんだと思う。薬のミスは、私だけのミスじゃなくて、斎藤さんの責任にもなる。だから、怖いんだよね…」
あかりさんの言葉に、ゆいさんは驚いて目を見開いた。
「斎藤さんは、医療の最前線にいた人。私たちがミスをしたら、最後に責任を負うのは斎藤さんなんだ。あの人が抱えているプレッシャーは、私たちが思っているよりもずっと大きいのかもしれない」
あかりの視点は、単なる「いじめ」や「嫌がらせ」ではなく、「多職種連携における役割と責任の重さ」へと昇華されていた。ゆいは、あかりが一回りも二回りも大きくなったことを感じた。
4. 変わる視線と次なる展開
あかりがミスを恐れず、むしろ積極的な姿勢で業務に取り組む日々が続く。
ある日、斎藤看護師は、あかりが山田さんと二人で、夜勤の緊急時対応のシミュレーションをしている姿を目撃する。山田さんの厳しい指導に、あかりは真剣な表情で食らいついていた。
(小島君は、この子のことを「報告もろくにできない落ちこぼれ」だと言っていたけど……)
斎藤看護師の中で、小島健太さんの言動に対する不信感が芽生え始める。真摯な態度は、小島の悪意ある噂とはかけ離れていたのだ。
斎藤看護師は、長年の経験から培った勘が告げる「違和感」を無視できなかった。そして、彼女の心の中で、冷たい「医療の壁」に小さなヒビが入り始めた。
斎藤は、小島の言動について、親分肌で現場を知り尽くしている山田に相談してみるべきではないかと考え始める。
🟢 主人公
中村 あかり(なかむら あかり)

- 18歳・高校卒業したての新人介護士明るく素直で笑顔が魅力。
- 少し不器用だけど「人の役に立ちたい」という気持ちは人一倍強い
- 祖母の影響で介護の道に進む
🟣 先輩職員
山田 典子(やまだ のりこ)

- 40代前半、ベテラン介護士
- 職場では親分肌だが、新人に厳しい態度をとる
斎藤 文子(さいとう ふみこ)

- 総合病院の急性期病棟で長年勤務し、看護主任クラスの経験を持つ。体力の限界から介護施設へ転職したが、医療行為ができない介護士との役割の違いに強い葛藤と責任感を抱えている。
小島 健太(こじま けんた)

- 30代半ば、山田の右腕的存在
- 山田に従って新人いびりをする
伊藤 ゆい

- あかりの理解者であり、心の支え あかりと同じく高校を卒業したばかりで、新人ならではの失敗や不安を共有できる唯一の存在
🔵 上司
佐藤 誠一(さとう せいいち)
- 50代、施設の管理者
- 現場の問題にはあまり首を突っ込まないタイプ

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