『チームとは』【新人介護士あかりの奮闘記】第八話:前半

お仕事のお悩み解決

【前回のあらすじ】

誤薬事件を乗り越え、プロとして成長した新人介護士あかり。入居者・鈴木さんの急変を未然に防いだ彼女の観察眼は、冷徹だった斎藤文子看護師とベテラン介護士の山田典子にも認められた。そしてこの日、斎藤さんと山田さんは、陰湿なあかりいびりを続ける小島健太さんの悪意を断ち切るべく、水面下で協力関係を結ぶことを決意するのだった。


1. 逃げられないリーダー

週明けの朝礼後、施設の管理者である佐藤誠一さんが、突然、フロア全体に声を張り上げた。

「さて、来週は恒例の『全ユニット合同・虐待防止研修』だ。今回は、小島に発表と進行の中心になって、研修をまとめてもらう」

指名された小島は、目を見開き、不満を露わにした。

(なんで俺なんだよ!面倒な仕事押し付けやがって!)

佐藤管理者は、現場の細かな問題には首を突っ込まないタイプだが、研修や行政対応など、施設の対外的な信頼に関わる事項には厳しかった。「現場経験が豊富だから任せた」という、彼なりの独断だった。

さらに佐藤管理者は続けた。 「サポートには、あかりを付ける。小島、二人でしっかり頼むぞ」

小島は、顔を引きつらせた。目の前には、自分がこれまでいじめ、誤薬の罠にかけたあかり。小島にとって、これほど不愉快で、そして逃げ場のないタッグはなかった。

2. 誰も助けない孤立無援

研修発表のテーマは重い。虐待防止に関する最新の法令遵守、他施設の事例研究、そして全職員へのアンケート集計と分析。小島一人で抱えるには、あまりにも膨大な作業だった。

小島は、仕方なく他ユニットのベテラン職員に協力を求めた。 「悪いけど、アンケートの集計、手伝ってくれない?」

しかし、返ってくるのは冷たい言葉ばかりだった。 「ごめんね、今月は忙しくて。小島さん、経験者だから一人で十分でしょ?」 「うちのユニットは人手が足りなくてね。小島さんがしっかりまとめてくれるって、管理者も言ってたし」

以前の情報隠蔽や、新人いびりで現場全体の評判を落としていた小島に、協力してくれる仲間は一人もいなかった。誰も助言もせず、ミスをしても指摘すらしない。完全に孤立無援のどん底に陥った。

3. 佐藤管理者の激しい叱咤

発表予定日が三日後に迫った。小島が徹夜で作成した資料は、体裁こそ整っているものの、肝心の法令に関する記述に致命的な誤りがあり、アンケート分析も適当な数字の羅列に終わっていた。

その資料を見た佐藤管理者は、ついに激怒した。普段、現場に無関心な彼がここまで声を荒げるのは初めてだった。

「小島!これはなんだ!この研修は、ただのお遊びじゃないんだぞ!このデタラメな資料で、職員全体の意識を変えられると本気で思っているのか!この研修の失敗は、施設の信頼に関わるんだぞ!

佐藤管理者は、資料を小島に叩きつけ、憤然と部屋を出て行った。管理者の激しい叱咤に、茫然自失となった。自業自得とはいえ、これまでのプライドが粉々に砕かれた瞬間だった。

4. プライドが邪魔した一言

激しく落ち込む小島を見て、あかりの心は痛んだ。小島の陰湿な嫌がらせを忘れられたわけではない。だが、「この研修の失敗は利用者さんのためにならない」というプロとしての意識が勝った。

休憩時間。あかりは同期のゆいに相談した。 「ゆいちゃん、あの資料、このままじゃダメだよ。小島さんには助言した方がいいのかな…」 「えー、放っておけばいいじゃん。自業自得だよ」とゆいは呆れる。

しかし、あかりは決意した。小島が一人で資料を抱え込んでいる休憩室へ、おそるおそる向かった。

「小島さん。あの…その資料の『身体拘束の例外三原則』について、一つだけ確認させて頂いてもよろしいでしょうか。その解釈ですと、最新の法令にそぐわない可能性があると思います・・・」

あかりは、冷静に、かつ丁寧に指摘した。それは、誤薬事件を乗り越えたあかりの、私情を挟まないプロの助言だった。

しかし、プライドを失いかけている小島にとって、それは「新人に指図される」という最大の屈辱だった。

小島は、顔を真っ赤にして、あかりの言葉を遮った。 「うるさい!お前みたいなミスばかりの奴に言われたくない!だいたい、お前なんかに何がわかる!二度と俺に話しかけるな!

小島はそう吐き捨てると、資料を乱暴に掴んで、部屋から飛び出していった。あかりは、ショックを受けて、その場に立ち尽くすしかなかった。

5. 陰で動くベテランたち

あかりさんが廊下の壁にもたれかかり、泣きそうな顔でうつむいている。その様子を、コーヒーブレイクから戻ってきた山田斎藤看護師が、静かに見つめていた。

「相変わらず、どうしようもない男だね、小島君は」 山田は、呆れたようにため息をついた。

斎藤看護師は、厳しい表情を崩さないまま、小島の去った方向を見据えた。 「山田さん。小島君の人間的な問題はともかく、このまま研修が失敗すれば、虐待防止への意識が後退し、最終的に被害を被るのは利用者様よ。それは、私たちプロとして見過ごせない」

斎藤さんは、プロ意識からくる強い決意を秘めていた。彼女は、隣に立つ山田さんを、じっと見つめた。

山田も、斎藤の言葉の重さを理解した。そして、親分肌の顔に、獰猛な笑みを浮かべた。

「そうね、斎藤さん。アイツを叩きのめすのは、研修の後でもできる。まずは、私たちベテランが、『チーム』の仕事を見せてあげなきゃならないね」

二人は顔を見合わせ、無言で頷き合った。

🟢 主人公

中村 あかり(なかむら あかり)

  • 18歳・高校卒業したての新人介護士明るく素直で笑顔が魅力。
  • 少し不器用だけど「人の役に立ちたい」という気持ちは人一倍強い
  • 祖母の影響で介護の道に進む

🟣 先輩職員

山田 典子(やまだ のりこ)

  • 40代前半、ベテラン介護士
  • 職場では親分肌だが、新人に厳しい態度をとる

斎藤 文子(さいとう ふみこ)

  • 総合病院の急性期病棟で長年勤務し、看護主任クラスの経験を持つ。体力の限界から介護施設へ転職したが、医療行為ができない介護士との役割の違いに強い葛藤と責任感を抱えている。

小島 健太(こじま けんた)

  • 30代半ば、山田の右腕的存在
  • 山田に従って新人いびりをする

伊藤 ゆい

  • あかりの理解者であり、心の支え あかりと同じく高校を卒業したばかりで、新人ならではの失敗や不安を共有できる唯一の存在

🔵 上司

佐藤 誠一(さとう せいいち)

  • 50代、施設の管理者
  • 現場の問題にはあまり首を突っ込まないタイプ

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新人介護士あかりの奮闘記はまだ始まったばかり! あかりと同期の伊藤ゆいとの出会いや、厳しい先輩・山田典子の意外な一面など、これまでの物語もぜひチェックしてみてください。

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